ツルハナナス|庭園文化をつなぐ、南米生まれの星形の花

ツルハナナスは、南アメリカ原産のつる性植物で、白または淡紫色の星形の花を房状に咲かせるナス科の観賞植物です。
19世紀以降にヨーロッパやアジアに渡り、多様な庭園様式に適応してきました。
その柔軟な生育形態と長い開花期間により、庭園装飾における実用性と美しさを兼ね備えた植物として高く評価されています。
この記事では、ツルハナナスの植物としての特徴、世界の文化的背景、歴史的な広まり、そして育て方の要点を詳しく紹介します。
基本情報
- 学名: Solanum laxum(別名: Solanum jasminoides)
- 科名: ナス科(Solanaceae)
- 原産地: ブラジル、アルゼンチンなど南アメリカ南部
- 外観: つる性の常緑低木で、高さは2〜4メートルほどに達します。葉は細長く、全体的に柔らかく繊細な印象です。開花期には、星形の小さな花がまとまって咲き、樹全体が白く霞んだように見えることもあります。
- 開花時期: 5月〜11月(暖地では通年開花することもあります)
世界各地での文化的特徴
ツルハナナスは、南アメリカからヨーロッパに移入された19世紀以降、各地で庭園植物として定着していきました。
ポルトガルやスペインなど、温暖な気候を持つ地中海沿岸地域では、邸宅の石壁やアーチを彩る植物として人気を博しています。
特にイタリアのナポリやシチリア島では、白い花の群れが夏の陽光に映えることから、結婚式の装飾にも用いられることがあります。
またイギリスでは、ヴィクトリア時代の温室園芸文化の中で、エキゾチックな外来植物のひとつとして扱われ、フェンスやトレリス仕立ての庭園構成に適した植物として導入されました。
日本では、明治時代以降の西洋庭園様式の導入とともに、都市部の洋風住宅の庭や公共施設の緑化空間に取り入れられました。
日本の気候でも育てやすく、つる性であることから、省スペースでの立体的な演出に適している点が評価され、ガーデニング愛好家の間で安定した人気を保っています。
花の歴史的エピソード
ツルハナナスの導入は、ヨーロッパの19世紀園芸ブームと密接に関係しています。
当時は、南米やアジアから多くの植物が収集・導入され、植物園や個人の庭園で品種改良や交配が盛んに行われていました。
ツルハナナスもこの流れの中でブラジルから輸入され、英国王立園芸協会の植物カタログにも掲載されるようになりました。
その成長の速さと長い開花期は、限られた温暖な季節を有効に楽しもうとする英国の園芸文化と相性が良く、花壇の背景植物や壁面緑化素材として用いられました。
さらに20世紀初頭には、都市部のベランダや小さな庭において、低コストで手入れがしやすく見映えのよい植物として紹介され、園芸雑誌でも取り上げられるようになります。
また、ツルハナナスが観賞用植物として分類されるようになった過程には、ナス科植物全体に対する人々の認識の変化も背景にあります。
ナス科には毒性を持つ種が多いため、かつては慎重に扱われていたものの、栽培技術の進歩とともに、観賞性を重視した栽培が一般化し、ツルハナナスのような非食用の観賞種も一般家庭に広がっていきました。
ガーデニングアドバイス

ツルハナナスは成長が早く、つるを伸ばして広がるため、仕立て方や植栽場所に配慮することで美しく育てることができます。
日照
日当たりの良い場所を好みます。光が不足すると花つきが悪くなるため、南〜東向きのスペースが適しています。
水やり
鉢植えでは、表土が乾いたらたっぷりと水を与えます。過湿は根腐れの原因になるため、排水性に注意してください。
土壌
水はけと通気性に優れた土壌を選びます。市販の草花用培養土に腐葉土や軽石を加えると理想的です。
肥料
生育期には2〜3週間に1回、液体肥料を施します。多肥になりすぎないよう、規定の濃度を守ることが大切です。
剪定と誘引
春先に古い枝を切り戻すと、株が整い開花も安定します。つるは放置すると乱れやすいため、早めにフェンスやアーチへ誘引して仕立てましょう。
冬越し
寒冷地では冬季に落葉することがあります。鉢植えの場合は霜の当たらない場所に移動してください。
まとめ
ツルハナナスは、南アメリカ原産のつる性植物で、白く清楚な星形の花を長く咲かせる観賞種です。
19世紀にヨーロッパ園芸文化に取り入れられたことをきっかけに、地中海地域やイギリス、日本などの庭園文化に広く浸透しました。
フェンスやアーチへの誘引に適しており、洋風の空間演出において汎用性の高い植物として利用されています。
その歴史的背景や広がりを知ることで、単なる装飾以上の意味をもって植物と向き合うことができるでしょう。